2008年03月16日

『ダージリン急行』

不意にフレームインしたエイドリアン・ブロディが走り出した汽車に追いつきデッキに飛び乗る、その一連の動きがスローモーションなのは、ただただ彼の長細い体がしなる美しさを堪能させたいがためなのではないかと思うほどに、このシーンの彼は魅力的だ。

それと同時に私達は、活劇の中を駆け抜けながらも追いつくことができなかったビル・マーレイに対する充分な別れの時間を与えられる。いつもどおりの絶妙なくたびれ加減と溢れる魅力に満ちた彼の顔が遠ざかっていく。これ以上の彼にとっての幕引きは無いんじゃないかと思えるほどにはまりすぎ。

今までのウェス・アンダーソンの映画とは違い、ここには大将となるべき、1つの大きな求心力を持った人物は出てこない。だから物語も進まない。雑多に時は流れていく。時にはそこに戸惑いつつも、既に冒頭から魅了されているのだから、抗いようもない。そして結局最後にはいつも通りに完全にやられている。まったくもって。

『ライフ・アクアティック』ではクライマックスにふさわしいタイミングで使われたスローモーションが、この映画の中では冒頭に始まり繰り返し、要所要所で連発される。そして最後のスローモーションに涙が溢れて止まらないのは、なにもそこに描かれていることから読みとれる意味ばかりだけでなく、スローモーションという手法それ自体が、そのシーンのために繰り返された伏線だったんだと気づいて(勘違いして?)感動してしまったからだ。

スローモーションと併せて、古き良きアクション映画のようなカットやズームアップも多用されているけれど、スローモーションもズームアップも、多用すればするだけ品のないクソ映画になりそうな手法なのに、そんなことはみじんも感じないし、敢えて使っているといった1回転を狙うあざとささえ感じられない。

それはもちろん、使うべきところに的確に使われているからなのだろうけど、それだけじゃない、それ以上のものを感じるのは何でなんだろう。その疑問はウェスの映画にずっと感じていたことでもある。どうしてこの人のスローモーションはただただ無対価に感動的なんだろう。

ここで使われるスローモーションやズームアップは、まるで今発見された手法のようだ。その手法が発見された以降に多くの映画で「便利な」手法として使われてきたうんざりするような手垢まみれのものではなく、今生まれたこれらの手法をどうしたら最大限に生かせるのか、最も面白いのかを一から考えているんじゃないかと錯覚してしまう。それらの手法が発見された喜びに満ちているような。

もちろん先人たちの映画を踏襲しているのだけれど、ウェスが見ているのはきっと、そうした喜びの時代の映画なんだ。

と、改めて書いてみたら当然のことだった。ウェスがどれだけ「映画」を愛しているかなんて、何を今さら、だ。それがどんなふうになんて、私には語る知識はないけれど、彼の映画を観ているだけで充分だ。

ただ、そうした愛が新しいスローモーションを生みだしてしまったんじゃないかと、そう思った。あれは、いままでに観たことのあるどんなスローモーションとも似て非なるものだ。きっとそうだ。

興奮にまかせてこんな与太ごとを書いてしまったけれど、本当はちっともこの映画を咀嚼できていない。ただ、今とりあえず書けることがエイドリアン・ブロディの感動的に美しいダッシュ姿だっただけのことだ。そしてそこから始まったスローモーションの終結点が素敵すぎたからだ。

何度も噛まなきゃ分からない。
後から反芻しなきゃ味わい尽くせない。
ラストのあの曲を、何度でも多幸感と共に聴きたい。
あれがなあ、始まりを祝福する歌になるとは。

ともあれ、この映画を観られて幸せだ。
この記事へのコメント
意外と早い復活でしたね。
「ダージリン急行」、ちょっと気になるのでDVD出たらレンタルして見ます。
Posted by しばむら at 2008年03月17日 01:45
ども。
気になるならスクリーンで観ようよぅぉう〜(泣
Posted by だま at 2008年03月18日 00:17
大妻小梅ちゃんの件でご連絡します。
小梅ちゃんは2008 3/26夕方に事故にあってー黒い車にひき逃げされたそうですー現在入院中との事です。
近隣に仕事場があり、小梅ちゃんには癒されていたので、このページも存知あげておりました。大妻駐車場に張り紙があり、本日しりましたのでご連絡します。

Posted by ロククロ at 2008年03月29日 12:35
ロククロ様

おしらせありがとうございます。
あまりのショックで呆然としています。
ひき逃げだなんて…

他の方のブログでもあまり容態は芳しくないように書かれているので辛すぎます。

小梅ちゃんには老衰以外の死は考えられないです。元気になってほしいです。
Posted by だま at 2008年03月29日 23:28
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