2007年09月17日

『サッドヴァケイション』

暗闇の海岸、無言で行われる上陸。そして空から撮られた北九州の町が、ジョニー・サンダースの「サッドヴァケイション」と共に流れていく。
このオープニングですでに打ち抜かれた。涙が溢れる。
それはもちろん、曲自体が素晴らしいということもあるのだけれど、暗闇の密入国者たちの姿や、連続するコマ落ち(っていうの?)で映されていく明るい光の中の工場地帯の空撮によってなのか、何らかの不足や不在や不安といった悲しみの要素が入れた亀裂に、ジョニー・サンダースの悲しくも温かい歌声が染み渡っていくような感覚。
くぅ〜、と染みてるところに追い打ちを掛けるように格好いいタイトル!
たまらん。

ものすごく強烈に感じたのは、ただおもしろい、ひたすら、おもしろい。そしてカッコイイ。

今までの青山作品は、「おもしろい」と書くのには実は勇気が必要だった。私ごときがうかつに「おもしろい」と言って良いのか、という躊躇。理解出来ていない部分を置き去りにして「おもしろい」と言っても、その置き去りにした部分こそが映画の核で、そこを省いて「おもしろい」なんてありえないんじゃないか、という不安感があった。さらにそれが一周して、青山作品を「おもしろい」ということで、「私は分かっている」的なフリがしたいだけなんじゃないかというねじれた感情までが併存してしまう。
そうした何かが今回は無い。ただ声を大にして「おもしれー!!!」と叫べばいいじゃん。当然、その面白さは観る側にすり寄るために何かを捨てたとか、あきらめたとか、そういったことから生まれているんじゃないだろう。勝手ながら、監督がプロテクターを脱いでくれたような、直接観る側に対峙してくれているような感覚。まあ、あくまでも勝手に感じているんですが。

それと同時に感じたのは、女性の自然さ。青山作品で性的役割を負わされている女性は、いつもどこか私から観ると不自然な感じがあって、そういう女性もいるのだろうけど…と引いてしまうことが多かったのだけれど、今作の板谷由夏は、出来過ぎた女でありながら、とても自然で素敵だった。溝口健二の中の女たちが、あり得ないほど自己犠牲的でありながらも不自然ではないように。

理解することを拒まれているような感覚、女性の不自然さ、私にとっての引っかかりだった2つがここにはないのだから、それは「ただ」面白いに決まっている。
いや、ただ面白いと言うことが許されている。

全編に使われるコマ落ち編集(て言うの?)がどういう意図によるものなのかなんて分からないけれど、邪魔でも不快でも過度でもなく、適度な違和感を醸していて、とばされた瞬間によって時間が強調され、むしろ1つの時間の中にたくさんの空間が存在しているという当たり前のことを改めて認識させられるようだった。だから、そこに映っているのが1つの景色でも、そこに映されていないものも存在していることを不在の瞬間によって、知らされているような。あとから考えたことだけど。

ああ、それに物語の省略の仕方がなんだかかっこいい。時間が飛んでいることが瞬時に理解できる、そのタイミングが妙に腑に落ちて気持ち良いのだ。

秋彦としげちゃんの掛け合いに笑ったり、「母」の恐ろしさにふるえたり、どうしようもない破綻に苦しくなったり、アチュンのいなり寿司頬張る顔がえなりかずきにしか見えなかったり、山のシーンが素敵だったり。一体どこを切り出せばいいのかわからん。

魅力的であるほどに怖い石田えりの、母親版「枯木灘」のクライマックスに恐怖で打ち震えた後(あの母親がこんなにも怖いと感じるのは、まだまだ私がお子ちゃまだということなんでしょうか)に訪れる、妙に気の抜けた明るさのあのラストがたまらない。

陰惨で暗い物語のはずなのに、なぜか幸福感が溢れる。陰惨な物語を生きている人間が、必ずしも陰惨ではないからか。「そして人生はつづく」

あと、やっぱり秋彦最高だ。


『helpless』『ユリイカ』に続く、北九州三部作の三作目だけれど、前二作を観ていなくても楽しめると思うので、まずこれを観て、面白いと思ったら遡れば良いと思う。というわけでこれは多くの人に観て欲しいな。

書きたいことがありすぎてキリがない。

最後にひとこと。
あおいちゃんが白バンや軽トラ転がす姿を観れるのは青山監督の『サッドヴァケイション』だけだけだけー!!!


@新宿武蔵野館
監督:青山真治
2007
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