2007年01月19日

『世界』

「誰か絆創膏持ってない?」
反復される響きと共に長回しで映される、狭くて鮮やかな色彩が溢れる舞台裏。その雑然とした情景に瞬間にして心を捉えられる。一体何なんだろう、この映画は。どこがどうすごいのか、なにが自分を惹きつけるのか。しかしその問いは、瞬時にこの「世界」に引き込まれてしまえば無用のものだ。そこを生きてしまう。そういう映画。

その雑然さが、この映画の中で最も北京らしい光景なのかもしれない舞台裏の光景は、それと同時に『フレンチ・カンカン』も思い出させる。溢れる色彩と、奔放にも自堕落にも見えるが「普通の生活」をしている女たち。
ただし、そこにはジャン・ルノアールの幸福はない。そこは単に生活の一部、それ以上どこにも行き場はない単なる「世界」だ。

夜の馬。
子供を「失った」両親の並ぶ後ろ姿。
夜の工事現場。
凝視する兄。
スカイトレイン。
エッフェル塔の上。

群像劇でもないのに、ほんのわずかな出演者にまで強い印象が残っている。
思い返すと次々と、あの人がいた、あの人はどうなっただろうと顔が出てくる。まるで自分の人生に関わった人のように思い出すことができるのはなんなんだろう。「1人としてどうでもいい顔は出てこない」

「北京を出ずに世界を回る」
閉塞感。絶望ではないし希望でもない。
簡単に海外に行けるという「実現可能性」の高さに目を眩まされているのか、
「東京を出ずに世界を回る」
そこにどんな差があるというのだ。
けれどそこにあるのは絶望ではない。

ああ、そんなことはどうでもいいな。そんなことはどうでもいいんだ。ただ、絶望でも希望でもない「生活」の映画がなんでこんなに胸を突くのか分かりたくて迷走だ。

新文芸座で観るシネスコはでかい壁一面めいっぱいの画面で堪能できて良い。ずっと観逃し続けてきて、でもスクリーンで観られて良かった。どうしてだか分からなくたって、この映画はスクリーンで観るべき「映画」だ。

それにしても、あのラスト。
いやはや。すごい人だなー、ジャ・ジャンクー。


世界』2004
監督:ジャ・ジャンクー
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