2006年03月23日

『Last Days』

■ガス・ヴァン・サントの事実に基づく3部作(『エレファント』『ジェリー』今作)に実際の事件を重ね合わせることは意味をなさないと分かっていても、カートの最後がどうだったのか、という先入観を捨てきれないまま観たために、映画としてどうだったのか、判断ができない。少しずつ思い返しながら、この映画は『エレファント』と『ジェリー』を併せ持っていながら、前2作よりもどこかぎこちなく、それは「カート・コバーン」という有名すぎるパーソナリティを選んでしまったせいなのか、あるいは前2作で試してきたことが形式化しないようにわざとズレを持ち込んだのかもしれないなどと考えている。この映画から感じた齟齬感が一体何から来ているのか、うまく捉えられない。

■さて、以下に綴られるものは感想というより妄想であると言った方がいいかもしれない。

■前2作でこれでもかと映された流れる空のかわりに、車のフロントガラスに映る並木。空よりもまぶしく、「フロントガラス上」であるがために木々の向こうには人の顔が映り、視点は落ち着かず、それは流れる空のようにただそこに飲み込まれていくことを許してはくれない。

■1枚の皮膜、あるいはべろりと内側と外側がひっくり返ったような分厚い肉の膜、いずれにせよ外界との間に膜が張られた状態。苦しみを経て、あるいはぼんやりとした不安の先で、ある日たどり着いてしまう膜の内側。膜の内側でなら生きていることができる。膜を破ろうとするものからは逃げる。けれど、膜の内側は息苦しい。叫ぼうとしても、表にでようとしても、膜は自分ではどうすることもできない。膜を破るのではなく、すっと差し入れてくれる手がないのなら、膜を揺すぶられないように分かりやすく隠れるしかない。柔らかい膜の外側にさらに必要となる温室。

■外界とは異質の空間。張られた膜がもたらす静寂。的はずれかもしれないけど、タルコフスキーの静寂を連想した。外界との不通。

■膜の内側で鳴らされる音は誰にも届かず、救いにもならない。『エリ、エリ??』とおもしろいほど対称的に、ここでの音は、不通を強調するだけだ。

■川の音、葉ずれの音、枯れ葉を踏みしめる音、突然耳に響いていることに気づき、そのことによって周囲の静寂に驚くといった種類の音は丁寧に盛り込まれ、余計に膜の内側の静寂が強調される。静寂であるということは音は届いていないということだ。音楽もテレビの音も呼びかけも笑い声も、そこでは響かない。

■ごく軽度のウツ症状でも感じられる外界との間に貼られる膜の感覚。つまり、多くの人がその静寂に親しい感覚を持つ、たぶん。映画として静寂を見せられることに慣れていないにしても。『エレファント』で殺害者と被害者が同じ地平に立つ人間であったように、「絶望のロックスター」と「私達」の境界はあいまいになる。
■ごく普通の、神話でも伝説でもない、皮膜の内側での死。異界での死は実行するもしないも結果でしかその差異がない。やっと、伝説に祭り上げられた男の死は私達の地平に帰ってきたと言ってもいいだろうか。だれもが幾度と無く繰り返した「死によって伝説になってしまったことのくそったれさ」という文脈すらが、ここではまるで無意味。
■その点やはり、他の誰でもなく、ガス・ヴァン・サント監督でよかった、と思う。

■しかし、タウンページのおじさんとの会話は分かりやすすぎやしないかね。とか、おしり女とか、安っぽくなる危険性との微妙なラインでの揺らめきもいくつかあったような。

■なぞだったこと3つ。
1.BOYZ??MENのビデオクリップの意味。
2.ヴェルヴェッツの選曲の意味。
3.「死」のイメージをなぜああ描いたか。ああいう描写はなんだか意外だ。
この記事へのコメント
だま姐さんの見方はおいらとまた違ってて面白い。

1.はパンフで監督が語ってたよ。
「白人アングラ音楽と黒人ポップ音楽との対比を出したかった」らしい。

2.はわからんなー。合ってたけど。
3.は意外にもわかりやすかった気がする。

音楽もテレビの音も呼びかけも笑い声も、そこでは響かなかったけどスコーンを噛み砕く音は響いたのだろうか(自爆)?
Posted by 柴村犬吉 at 2006年03月24日 09:53
白人アングラ音楽...
Posted by だま at 2006年03月24日 22:59
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その死をまんじりと見つめろ
Excerpt: ----------17日金曜日のサマーソニック06の第4弾発表でTOOLが名を連ねてからというものの、筆者の気分はあまり優れない。いや、あまりではなく最悪がずっと続いてイラついている。それに加え最近..
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Tracked: 2006-03-24 09:54
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