2005年09月19日

『ランド・オブ・ザ・デッド』

■まさか自分がゾンビ映画を映画館で観る日が来ると思わなかったよ。
■そんなわけで、怖いもの映画が苦手なので、ゾンビ映画についてどうこう語れる知識も経験も無いのですが、一応この映画を観る前にロメロ翁の前2作は観ました。2作目の『ゾンビ』は名作と言われているだけあって、その緊迫感もサバイバル感もすばらしくおもしろかった!あと、短いスパンで『ナイト??』『ゾンビ』『ランド??』と観たので、ゾンビに対する人の意識の移り変わりが比較できて面白かった。ただ驚愕するところから始まって、それに対抗しようとする世界、それがいることが通常になっている世界。

■で、今作が賛否両論らしいのも分かる。ゾンビものというより戦闘ものなんだよね。圧倒的な武力とバリケードでゾンビの上に立つ人間、一方で意識を持ち始めて、もはや「得体の知れない存在」であることをやめてしまうゾンビ。そこには『ゾンビ』のようなギリギリのやりとりはほとんどない。だからゾンビものファンとしては物足りないのかも。
■でも私にはすごく面白かった。まず90分間1秒たりとも退屈する隙を与えない。エンターテイメント映画として充分におもしろい。やや全体の展開が急ぎすぎているような気もするけれど、盛り込みすぎて拡散してしまうということはなくて、要所々々がきっちり押さえられているのでがっつり引き込まれていく。ハイクラスの生活と底辺の町の生活も、あの短さの中できっちり描写されていてわかりやすい。ゾンビ側にはなんとヒーロー(ガソリンスタンド)とヒロイン(口裂け)が登場し、その心強い仲間(肉屋)までいる。ゾンビのバラエティの豊富さもかなりすてき。
■えぐい描写もちゃんと、きっちり。うえっぷ。

■ただし、娯楽ホラー作としても面白いのだけど、単に娯楽作だと言うには、あまりにも露骨に政治的状況というか、今のアメリカを描いている。もともと前2作もベトナム戦争等への批判が背景にあったというけど、今作は本当に露骨、あまりにもストレート。
■タワーに住むハイクラスの人間とその周囲に住む一般の人々と、「安全地帯」の外にいるゾンビの3層構造はアメリカを取り巻く状況を極限まで単純化して描いている。権力を持つアメリカ人と、権力を持たないアメリカ人と、アメリカに攻撃を受ける人々。
■映画が始まってすぐに、「安全地帯」の外に拡がるゾンビの世界へ「物資補給」に行った軍隊の人間によって「虐殺」が行われる。この言葉は強大な武器でゾンビを大量に殺すシーンで、軍隊の人間が「まるで虐殺だ」とつぶやくセリフで使われている。このセリフを聞いた瞬間に、もはやロメロ監督が今作で「ゾンビ」を「彼岸の何か」として描くことを完全に放棄したことに気がつく(思った)。アメリカ国内で起きた初めての、大量の死者を出したテロという911以降、もはやゾンビ達は彼岸の存在ではなく、自分たちと同じく意識を持った存在としてして描かざるをえなくなったんだと思う。
■怒りを持ち目的を持つ、あまりにも人間に近いゾンビ。だからとてもとても切なかった。ゾンビと人間の相互理解などあり得ない、共生などあり得ない、たとえ両者がひとつながりの存在であっても、完全に異質の存在なのだ。それが今の段階での現実。
■では、「彼らも行き場所を探しているんだ」という主人公はゾンビの理解者だろうか。彼は自分の身を守れるだけの充分な武力を得て「誰もいない土地」という新たな安全地帯に逃げることができる。それ以前は町の人々のために物資補給を続け、そのためにゾンビを殺してきたし、人々を救うために圧倒的な武力でゾンビを一気に焼き払った。しかも物資補給に絶大な威力を発揮する「圧倒的な武器」は彼自身が設計したものだ。
■主人公は友情にもあつく、まっとうな人間代表のように描かれている。けれど、理解者ではないだろう。タワーが無くなったあとに「理想のまち」を作ろうとする人々が「アメリカの中で頑張る人々」ならば、彼は単なる「アメリカ外への逃亡者」であって、ゾンビの理解者ではなく、ゾンビと関係を絶つ人なのではないか。それとも、「圧倒的な武力」と共に誰もいない土地へ消えていく彼は、アメリカから「強大すぎる武力」を排除してアメリカの再生を促す希望の象徴なのだろうか?主人公をあくまで人間として考える場合と、1つの象徴として考える場合とではどうも後味が違う。

■主人公をあくまで人間と考える場合、彼も残る人も、両者いずれの場合にせよ、その先にほほえましい世界が待ち受けているとは思えない。ゾンビが存在することを知ってしまった以上、どこへ逃げようとどのように生きていこうと「ゾンビと人間」という枠組みがある以上、救いはない。ロメロ監督は自分で生み出したゾンビの存在を自分で抹殺したがっているみたいだ。完全なる不理解と非共生の象徴としてのゾンビを。

■それにしても、奥目がちの顔がどんどんメリケン大統領に見えてくるデニス・ホッパーがすごかった。やー、あの貪欲さと権力によって支えられている尊大さと同時にそれらを失うことの恐怖を抱えた小心さの同居した目はすごいよ。もうね、そっくり。もちろんデニス・ホッパー自身じゃなくてね、その演技、というか演技でつくったその目がすごい。

■こんな見方だったので、目の前に見えているものとは違うものも観ているという、娯楽映画に対する姿勢としてはあまり正しくない見方だったかもしれない。ずっと切なくて切なくて涙を浮かべながら観ていた。それでも、ロメロ監督がここまで愚直に描かざるをえなかった状況とその勇気と良心などというものも勝手に想像してしまう。
■でもですね、改めて書いておくけれど、娯楽作として充分面白かった。90分の物足りなさ、あともうちょっと観たいと思うあの感じも大好きだ。

■言われて気がついたんだけど、ゾンビって、ゾンビとそうじゃない人をどうやって区別しているのだ?
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